「抗生剤が効かなくなる」
薬剤耐性菌問題をAIで解決へ導く

GramEye

世界に蔓延する薬剤耐性菌

 菌が体内で耐性化し、必要なときに抗生剤が効かなくなってしまう「薬剤耐性菌」の増加が世界中で問題となっています。耐性化した菌は一般的な菌のおよそ3倍の死亡率になるとの報告(※1)もあり、2050年に薬剤耐性菌による死亡者数は1000万人を突破し、ガンによる死亡者数を超えるとも予測されています(※2)。国内外で人や物が行き交う今、グローバルレベルでも警戒が強まっており、WHOは2021年、薬剤耐性菌は人類が直面する世界的な公衆衛生上の脅威トップ10の1つであると宣言しました(※3)。国内でも厚生労働省から「薬剤耐性菌問題アクションプラン(※4)」が発表されています。

背景に微生物検査技師の過剰な業務負担

この問題の原因の一つとして挙げられるのが、病院やクリニックでよく処方される抗生剤の不適切な投与です。この背景には、細菌検査数に対する検査技師の深刻なリソース不足があります。
検査技師が菌種を推定する際に最初に行う検査が「グラム染色」です。この検査では、菌を染色し顕微鏡で観察することで菌の色と形態から4種類に分類することができます。
グラム染色は菌種推定の入り口の検査として有用であるものの、膨大な検査数を手作業でこなさなければなりません。多数ある菌種の色と形態を顕微鏡で判定をする必要があることと人材不足もあいまって、現在菌種の判定報告までに半日程度、遅いケースでは2日もの時間を要します。医師の立場では数日も待っていられず、広範囲に効いたり、誤って効果のない抗生剤を投与するケースが散見され、薬剤耐性菌を増やす事態に繋がっているというわけです。

世界初、グラム染色~菌種推定をAIで完全自動化

抗生剤は適切に使用されることを前提にすれば、現代医療に欠かせない薬です。とすれば、病原菌をできるだけ迅速・簡便・安価に推定し、医師がより適切な抗生剤を選べるようにすることが、薬剤耐性菌問題解決への有力なアプローチの1つとなります。
これを、AIとロボティクスの力で確立しようとするのが大阪大学発のスタートアップ、GramEyeです。GramEyeは、グラム染色から菌種の分類・推定までをAIで完全自動化する微生物・細胞染色分析装置を開発、2024年に医療機器として発売する予定です。グラム染色までを自動化する技術はすでに存在しますが、染色から菌種分類・推定までの完全自動化装置の開発は世界初となります(※5)。

検査技師の負担大幅減 結果報告までの時間短縮も

 GramEyeの装置を使えば、検体を塗ったスライドガラスを挿入後10分待つだけで、自動で染色作業から菌種分類までのプロセスが完了します。検査技師は勤務時間の40%をグラム染色に当てているという調査結果もあり(※6)、24時間稼働可能な本装置の導入によって、グラム染色以外にもさまざまな業務を抱えている技師の作業負担の軽減をめざします。その結果、現状半日から2日かかっている結果報告までのリードタイムの短縮にも貢献できると考えられます。

<左図:マニュアル検査でのフローと課題>
従来のグラム染色→結果報告が遅れていて、医師は微生物検査の結果なしに抗菌薬・抗生剤を選択する必要がある

<右図:本検査装置で解消しうる課題>
自動化によりグラム染色結果報告までの時間が短縮化され、医師はグラム染色に基づく抗菌薬・抗生剤を選択できる

2025年には超熟練検査技師レベルに

 製品のプロトタイプは完成しており、2024年の医療機器としての発売開始に向けてすでに数十の協力医療機関から大量の染色画像データを収集済みです。今後も導入された医療機関での画像データを随時取り込み、AIに学習させ続けることで、精度を指数関数的に向上させていきます。
2025年には現在のグラム染色のスタンダードである4分類から20分類以上の分類ができるレベルにアップデートを実施予定、さらに2025年にはグラム染色では区別することが困難な菌種の推定までも可能になる見込みです。現状、このレベルの分類や菌種推定ができるのは熟練された一部の検査技師のみで、すべての病院にそのような技師がいるわけではありません。GramEyeのAIが高度なレベルで標準化されたグラム染色を可能にすれば、抗生剤の選択や、グラム染色後の検査の運用効率化も見込めます。

グローバル展開でグラム染色デジタル画像プラットフォーマーの可能性も

 本装置では、技師の力量に頼らない標準的な画像データを効率的に収集することをめざしています。現在のグラム染色はマニュアル検査であるゆえ、世界的に染色画像のデジタル化が遅れています。この状況を鑑みると、世界市場においても本装置の画像データ収集能力が大きな強みとなる可能性が高いです。今後数年のうちにラボオートメーションが進む欧米への事業展開を構想しているGramEyeですが、本機器で世界中からグラム染色画像を収集・標準化するプラットフォーマーとなる可能性も秘めています。
また、グローバルに本機器の普及をめざす一方で、院内感染が懸念される結核菌をはじめとした抗酸菌の推定も可能にする横展開も視野に入れています。
企業ビジョンでもある「抗菌薬が適切に処方される世界の実現を目指す」姿勢に余念はなく、薬剤耐性菌問題というグローバルな社会課題の解決に挑む大学発スタートアップとして注目を集めています。

代表取締役社長 平岡 悠

大阪大学医学部医学科卒業。在学時、病院コンサル企業にて在院日数短縮による収益向上戦略に携わる。後にプログラミングを学び、医療系データの解析、WEBサービス、モバイルアプリの開発を行う。阪大医学部PYTHON会にて幹部として、プログラミング教育活動を行う。 GramEyeでは、人工知能の開発、モバイルへの実装など、ソフト全般の開発を行っている。現在、大阪大学の放射線科医としても活躍中。

企業概要

名称
:株式会社GramEye
役職 / 代表者氏名
:代表取締役社長 平岡 悠
設立年月日
:2020年5月18日
所在地
:大阪府茨木市大手町5-4 009号室大阪府茨木市新中条町1-30-513
事業内容
:グラム染色をロボティクスおよび人工知能でアップデートし、抗菌薬の適正利用を目指すAI・ロボティクスソリューションの開発
・細菌分類(将来的には菌種推定)AIの開発
・グラム染色ハードウェアの開発
企業ホームページ
https://grameye.com/

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